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創傷治癒アッセイ(Scratch Wound Healing Assay; スクラッチアッセイ)とは?
創傷治癒アッセイ(Scratch Wound Healing Assay; スクラッチアッセイ)は、遺伝子のノックダウンや化学物質への曝露など、様々な刺激が細胞の遊走や増殖に及ぼす影響を研究するための実験手法です。
典型的なスクラッチ創傷治癒アッセイでは、細胞単層膜(Cell monolayer)にスクラッチによって創傷ギャップ(wound gap)を形成させ、細胞が移動あるいは増殖してこのギャップを埋めようとする(治癒)過程を観察します。細胞移動や細胞成長に関わる因子が、ギャップの「治癒」の速度を変化させることができるとされています(Lampugnani, 1999)。
ここでは、ヒト乳腺がん細胞株を用いた創傷治癒アッセイのプロトコルを紹介します。
必要な試薬類
- Human MDA-MB-231 cell line(ヒト乳腺がん細胞株) (ATCC, catalog number: HTB-26 ™)
- D-MEM
- FBS
- D-PBS
- パラホルムアルデヒド
- エタノール
- Crystal violet (Sigma-Aldrich, catalog number: C3886 )
試薬の調製
・細胞固定液(4% パラホルムアルデヒド)の作り方(100mL)
注意:パラホルムアルデヒド(PFA)は揮発するためドラフト内で調製します。
- 80mLの1xD-PBSをガラスビーカーに移し、60℃に加温します。
- 4gのパラホルムアルデヒドを加えます。
- 攪拌しながらパラホルムアルデヒドが溶解する(溶液が透明になる)まで1Nもしくは5Nの水酸化ナトリウムを一滴ずつ添加します。
- 溶液を氷上で冷やします。パラホルムアルデヒドの溶け残りがある場合はフィルターろ過します。
- pHをチェックし、少量の塩酸で目的のpHに合わせます。
- 1xD-PBSを加え、全量を100mLにします。冷凍保管で1か月以内に使用します。
参考文献:Protocol for Making a 4% Formaldehyde Solution in PBS, R&D Systems.
・細胞染色液の作り方(100mL)
1g Crystal Violetに2 mL エタノールを加えて溶解し、98 mL 滅菌水を加えます。
必要なラボウェア
- 24ウェルセルカルチャープレート
- セルインキュベーター : 37 °C and 5% CO2
解析ソフトウェア
- PhotoshopもしくはImage J
プロトコル:創傷治癒アッセイ(Scratch Wound Healing Assay)
- 10%FBS入りD-MEMで細胞を培養します。
- 24ウェル細胞培養プレートに細胞を播種し、24時間後に単層で~70%コンフルエントになるよう培養します。
- 1mL用のピペットチップの先端で、ウェルを真っ二つに切るイメージでゆっくりと細胞単層に切り込みを入れます。チップ先端をウェルの底面にあてながらチップを手前に動かします。
創傷ギャップの大きさはチップ先端の直径によって変わります。小さなギャップを作る場合はより小容量のチップを使います。 - さらに創傷ギャップを作る場合は、最初のスクラッチ傷に対し、垂直方向にもう一度スクラッチします(十字傷を作る)。
- D-MEMでゆっくりとウェルを2回洗浄し、剥離した細胞を除去します。
- D-MEMに治癒効果を調べたい物質を溶かし、その培地に交換します。
- セルインキュベーターで48時間培養します。
- 1xD-PBSでウェルを2回洗浄し、細胞固定液をウェルへ添加します。そのまま30分間静置します。
- ウェルに細胞染色液を添加し、30分間静置します。
- 顕微鏡で創傷ギャップのふさがり具合を観察します。PhotoshopやImage Jで定量することも可能です。
創傷治癒アッセイの動画(Scratch Wound Healing Assay)
創傷治癒アッセイの全体の流れがわかる動画です。
参考文献
- Lampugnani, M. G. (1999). Cell migration into a wounded area in vitro. Methods in Mol Biol 96: 177-182.
- R&D Systems:Protocol for Making a 4% Formaldehyde Solution in PBS.
- Chen, Y. (2012). Scratch Wound Healing Assay. Bio-protocol 2(5): e100. DOI: 10.21769/BioProtoc.100.
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