免疫沈降法(IP;Immunoprecipitation)は、ターゲットタンパク質の特異的な精製を可能にする方法です。ターゲットタンパク質に対する抗体をセルライセートなどトータルタンパク質と反応させることで、抗体がサンプル中のターゲットタンパク質に結合します。
抗体が結合したターゲットタンパク質は、プロテインAやプロテインGが結合したアガロースビーズや磁気ビーズを用い、抗体/タンパク質複合体として回収できます。
免疫沈降はタンパク質研究において基本実験手法ですが、タンパク質の抽出バッファー、抗体、溶出バッファーをターゲットタンパク質ごとに選定する必要があり、決して容易な手法ではありません。
本記事では免疫沈降がうまくいかないときのトラブルシューティングを記載しています。
問題:バックグラウンドが高い
原因:不溶性タンパク質の持ち込み(キャリーオーバー)
サンプルをRIPAバッファーなど界面活性剤を含むバッファーで溶解した後、抗体を反応させる前に、サンプルを遠心分離し、すぐに上清を取ります。不溶性タンパク質はペレットとして沈殿するため、ペレットを除去することで不溶性タンパク質の持ち込みを低らせます。
複数回繰り返すことで、不溶性タンパク質をより減らせますが、ターゲットタンパク質の回収量も低下する恐れがあります。
原因:ビーズと非特異タンパク質が結合している
免疫沈降に使用するビーズは、ビーズそのものにタンパク質が結合します。ビーズに結合したタンパク質が溶出工程でターゲットタンパク質に混ざって溶出され、バックグラウンドが高くなります。
1%BSA/PBSとビーズをで1時間インキュベートし、ビーズをブロッキングします。ブロッキング後は1xPBSで3~4回洗浄します。
原因:抗体の特異性が低い
抗体を変更するか、抗体濃度を下げます。抗体メーカー推奨の濃度が最適とは限りません。
原因:サンプルに含まれる非特異タンパク質が多い
使用する細胞/ライセートの量を減らします。一般に、溶解バッファーで処理した後の10~500μgのタンパク質が含まれるタンパク質溶液を免疫沈降のサンプルします。
問題:ターゲットタンパク質が検出されない
原因:サンプル中のターゲットタンパク質が少ない
ウエスタンブロットでライセート中のターゲットタンパク質の発現を確認します。ウエスタンブロットでバンドがが出ることを確認できれば、免疫沈降で使用するライセートの量を増やします。
原因:抗体量が足りない
ターゲットタンパク質の量に対して抗体量が少ない場合、抗体に結合しないタンパク質が洗浄工程(フロースルー)でロスします。抗体量を増やすことで回収量を上げられます。
原因:ビーズからターゲットタンパク質が溶出しない
下流のアプリケーションがウエスタンブロットなどタンパク質の変性が問題にならない場合、SDS-PAGE用のサンプルバッファーを溶出バッファーとして使用します。SDS-PAGE用のサンプルバッファーには変性剤と還元剤が含まれているため、強力な溶出作用があります。
一方、なるべくターゲットタンパク質の変性を抑えて回収したい場合、100mmol/L グリシン溶液, pH2.5のような酸性バッファーを溶出バッファーに使用します。抗体は酸性条件で抗原との結合力を失うため、抗体に結合していたターゲットタンパク質が抗体から離れます。溶出後に1mol/L トリス塩酸バッファー, pH 8.5などで中和することで、タンパク質の変性をある程度抑えられます。
しかし、一時的にタンパク質が酸性条件にさらされるので、まったく変性しないわけではありません。また、抗体によっては酸性条件でも抗原との結合力があまり低下しない場合があります。
原因:抗体がタンパク質に結合しない
免疫沈降(IP)に使用できる抗体であっても、タンパク質抽出バッファー(Lysys buffer)の種類によっては抗体の活性が低下します。
例えば、RIPAバッファーはタンパク質抽出バッファーとしてよく使用されますが、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)が含まれているため、抗体の活性を低下させる作用があります。
SDSを除いた組成でターゲットタンパク質を可溶化できるのであれば、なるべくSDS不含の溶出バッファーを使用します。
例:25mmol/L トリス塩酸, pH 7.4, 150mmol/L 塩化ナトリウム, 1mmol/L EDTA, 1% NP-40, 5% グリセロール
参考文献
abcam, Immunoprecipitation troubleshooting tips.
Thermo Fisher Scientific, 共免疫沈降実験におけるバッファーについて|知っておきたい!タンパク質実験あれこれ 第23回.
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