新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出[イムノクロマト法の評価]

2020年4月1日に国立感染症研究所から「迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価」が公開された。

この報告では、SARS-CoV-2の検出において、RT-PCR法とイムノクロマト法の結果を比較し、その一致率が示された。その結果、 イムノクロマト法は発症後1週間程度までは感染を検出できないケースの方が多いことが示された。

RT-PCR法とイムノクロマト法では検出する対象が違うため、結果が異なるのは当然と言えるが、どの程度違うのかは把握しておくべきだろう。

本記事では、その内容を補足を交えながら主要な部分を紹介する。

予備知識:RT-PCR法とイムノクロマト法

まずは、国立感染症研究所から公開された内容を理解するための予備知識を簡単に述べる。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の判定には、原因ウイルスであるSARS-CoV-2(2019-nCoV)を直接的、もしくは間接的に検出する方法がある。

具体的には、現在市販されているキットは以下のどちらかがその原理である。
1. ウイルスRNAを逆転写して増幅、検出するRT-PCR法(直接的)
2. ヒト血中に存在するウイルスに対する抗体を検出するイムノクロマト法(間接的)

国立感染症研究所は、「新型コロナウイルス感染症 病原体検出マニュアル」において、RT-PCR法のプロトコルを公開している。 RT-PCR法は、イムノクロマト法よりも結果の精度は高いとされるが、リアルタイムPCR装置とそれを使える臨床検査技師が必要となる。また、RT-PCR法はウイルスRNAの抽出工程と逆転写・遺伝子増幅工程が必要であり、結果が出るまで4-6時間は要する

一方で、イムノクロマト法は、血液(あるいは血清か血漿)があれば15分間程度で結果が出る。欠点は、ウイルスが体内に侵入してから抗体ができるまでタイムラグがあることである。つまり、感染者が感染初期であった場合、検査で検出できない可能性が RT-PCR法よりも高い。
また、イムノクロマト法は、ウイルスに対するIgM抗体とIgG抗体をそれぞれ検出できる。IgM抗体は、ウイルス感染初期に一時的に産生される抗体である。IgG抗体は、IgM抗体に遅れて産生される抗体である。一般に、どちらの抗体が検出されるかで感染後のおおよその経過日数を推測できる。

なお、どちらの手法であっても検出できない事例は必ずあり、100%正確な判定方法はない。

方法

検体;
 RT-PCR法で確定されたCOVID-19患者血清の残余検体(37症例、87検体)
イムノクロマトキット;
 研究用として市販されているイムノクロマト法による抗体検出試薬
調査内容;
 発症後日数ごとの抗体陽性率を調査した。

結果と結論

全体の結果は下表の右にある「IgM抗体もしくはIgG抗体」に示されている。陽性の列がイムノクロマト法でウイルス感染している(厳密には”感染していた”も含まれる)と判定された数である。今回はRT-PCR法で陽性の検体のみなので、RT-PCR法と結果が一致した数と言い換えられる。

出典:国立感染症研究所(2020年)迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価.

各項目の結果と解釈は原著を参照していただきたいが、Day1-6とDay7-8で 「IgM抗体もしくはIgG抗体」 の陽性率がそれぞれ7.1%と25.0%と低いことから、原著では”発症6日後までのCOVID-19患者血清ではウイルス特異的抗体の検出は困難であり、発症1週間後の血清でも検出率は2割程度にとどまることが明らかになった。“としている。

すなわち、今回の結果に限ると、イムノクロマト法は発症後1週間程度までは感染を検出できないケースの方が多いことになる。

ただし、今回は1種類のイムノクロマト試薬を使用した結果であること、RT-PCR法でも偽陽性(ウイルスは存在していないが存在していると誤った判定すること)があることを留意いただきたい。

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参考文献

 国立感染症研究所(2020年)迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価.
 国立感染症研究所(2020年)新型コロナウイルス感染症 病原体検出マニュアル, 2020年3月19日更新.

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