DNAをウイルスにパッケージし、細胞に感染させる準備ができたとしましょう。 ところで、細胞にウイルスを100%感染させるためには、どのくらいの数のウイルス粒子数を添加すればよいでしょうか?
本記事では、多重感染度(Multiplicity of Infection; MOI)の概念を説明し、実験に最適な多重感染度を決定する方法を紹介します。
多重感染度(MOI)とは?
多重感染度とは、感染させる対象に対する感染性物質の比率のことです。多くの場合、ウェル中の培養細胞に対するウイルス粒子の比率です。
例えば、100万個の細胞に1,000万個のウイルスを加えた場合、感染多重度は10です。1つの細胞に10個のウイルス粒子が感染する確率です。
MOI =ウイルス粒子の数/細胞数
多重感染度(MOI)に影響を与える要因
多重感染度の定義に基づくと、多重感染度が1であれば、1つの細胞は1つのウイルスに感染していることになります。しかし、実際はそう単純ではありません。ウイルスの細胞への感染しやすさに影響を与える複数の要因があります。
細胞:使用する細胞は感染しやすいか
細胞の状態:増殖期か
ウイルスの種類:レンチウイルス、アデノウイルスなど
感染効率:感染しやすいか
実験アプリケーション:ウイルス生産、タンパク質発現など
SH-SY5Yなどの神経細胞へ遺伝子導入のためのレンチウイルスを感染させる場合、10〜50の高い多重感染度が必要です。もっと極端な例として、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus; AAV)では10,000から500,000の多重感染度が用いられます。
一方、Sf9細胞のような昆虫細胞をウイルス産生のためのバキュロウイルスに感染させる場合、1未満の低い多重感染度が推奨されます。
また、細胞が増殖期でない場合、効率的に形質導入(形質転換)するためにはより高い多重感染度が必要となる場合があります。
多重感染度が高すぎる(過剰なウイルス)と、大量の細胞死を引き起こし、逆に低すぎる(ウイルスの不足)と非感染細胞ばかりになります。
最適な多重感染度(MOI)を決定する
実験に最適な多重感染度を決定するには、標的細胞にレポーターウイルスを用いたパイロット実験を行います。以下はGFP(Green Fluorescent Protein)を用いた一般的なパイロット実験の流れの例です。
多重感染度の値を振る
GFPレンチウイルスを使用して、多重感染度の範囲を1、2、5、10、15、30と6種類の条件に振ります。
細胞に感染させる
細胞をGFPレンチウイルスに感染させ、48~72時間後にGFP発現細胞数を測定します。
適切な多重感染度(MOI)の選択
すべての細胞がGFPを発現している最小の多重感染度を採用します。
以下はパイロット実験の結果の例です。この場合、標的細胞を100%感染させた最小のMOI=10を本実験で採用します。
参考文献
Applied Biological Materials(2020)What is Multiplicity of Infection (MOI)?
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