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新型コロナウイルス感染症 2019-nCoV 喀痰検体の前処理法 ver. 1【Ver.2.6, 2020年2月17日版】

本内容は、 国立感染症研究所が公開する新型コロナウイルス感染症 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.6(2020年2月17日更新)の別添に記載されている「喀痰検体の前処理法 ver. 1」の内容です。2020年2月18日現在における最新版のマニュアルです。 以下は原文の抜粋です。


鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻汁、鼻洗浄液などに比べて、喀痰は粘性が非常に高いため、ピペット操作でそのまま検体を取り扱って検査を行う事は困難である。
喀痰をPBS(-)等で懸濁した場合は、喀痰表面に存在するウイルスを浮遊させる事は可能だが、喀痰内部に閉じ込められたウイルスまでは効率よく浮遊させる事ができないと考えられる。さらにPBS(-)等の懸濁液を多く添加する事によって喀痰そのものが希釈されてしまうため浮遊ウイルス濃度が薄くなり、ウイルスRNAの抽出効率やウイルス分離の効率が低くなる可能性がある。

一方、喀痰を溶解した場合は、喀痰内部に閉じ込められたウイルスも浮遊させるため、ウイルスRNA の抽出およびウイルス分離の高効率化が期待できる。しかし、喀痰に含まれるゲノムなどの夾雑物も同時に溶出される事になるため、DNase処理や溶解液の希釈などの処理を行うなどして、ウイルスRNAの抽出またはウイルス分離の効率に影響しないようにする事が重要である。

本マニュアルでは、PBS(-)等を用いた喀痰懸濁法とDTTを用いた喀痰溶解法による喀痰検体の前処理法について、参考までに例示する。また、例示した前処理法以外にも、ビーズ式破砕機を利用した破砕法などの前処理方法もあるので、施設毎に検討して実施していただくことも可能である。

ウイルス遺伝子検査のための喀痰検体の前処理方法について

DTT 溶解液またはPBS(-)懸濁液の上清をRNA 抽出に使用する。これら溶液の粘性は非常に高く、そのままではピペット操作が困難であるため、先切りチップ*1を使用するとよい。
*1 コンタミネーション防止のため、あらかじめ試薬調製用のキャビネット内などのきれいな環境下でアルミホイルを敷くなどして、カミソリ・カッターナイフ・ハサミ等(コンタミネーションを防ぐために常に新品もしくは専用のものを使用する)でチップの先を切った先切りチップを準備しておく。

喀痰処理に必要な器具および試薬

マイクロ遠心機、マイクロピペット(200、1000μL)、滅菌遠心チューブ(15mL、50mLなど)、カミソリの刃・カッターナイフ・ハサミ等、滅菌微量遠心チューブ(1.5mL、2.0mL)、PBS (-)(細胞培養グレード)、ジチオトレイトール(dithiothreitol,DTT: 分子生物学用グレードを推奨、Wako Cat#044-29221, 29223)、滅菌蒸留水、(使い捨てピンセットなど)

喀痰検体の輸送と保存

空容器に採取された喀痰検体は下記1.3.1 もしくは1.3.2 の方法で前処理を行う。ウイルス輸送培地等に採取された喀痰検体はPBS(-)をウイルス輸送培地等に読み替えて、下記1.3.2 の方法において前処理を行う(フローチャート図を参照)。なお、空容器またはウイルス輸送培地等に採取された喀痰検体の輸送と保存については、「2019-nCoV(新型コロナウイルス )感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」に準じて行う。

喀痰検体をDTTで溶解/ PBS(-)で懸濁

喀痰検体をDTTで溶解する場合

1) PBS(-)を用いて10% w/v DTT 溶液を作製する(用時調製*2、以下10% DTT in PBS とする)。

2) 喀痰に対して容量で1 倍量の10%DTT in PBS を加えボルテックスミキサーおよび転倒混和により懸濁する。(あらかじめ喀痰を別のチューブに取り分ける場合は、デカンタもしくは使い捨てピンセット等を用いて分取するとよい。)

3) 室温で15 分間インキュベートする。(この段階で喀痰の粘性が低下し扱いやすくなる。口径の広いチップであれば先を切らないでも使用出来る場合がある。)

4) 溶解液を用いてウイルス分離を行う。RNA 抽出を行う場合は事前に 2 DNase処理を行う。

*2 10% DTT in PBS は用時調製が望ましいが、あらかじめ小分け分注したものを-20℃で1年程度保存する事も可能である。凍結融解は避ける。

喀痰検体をPBS(-)で懸濁する場合

1) 喀痰に対して容量で1〜3倍量のPBS(-)を加えボルテックスミキサーおよび激しい転倒混和により懸濁する。(あらかじめ喀痰を別のチューブに取り分ける場合は、デカンタもしくは使い捨てピンセット等を用いて分取するとよい。喀痰により粘性が異なるので、容量の変更は適宜行う。)

2) 先切りチップで懸濁液(1mL程度)を1.5 mLもしくは2 mL滅菌微量遠心チューブに移す。

3) 20000 x g、30 分間、4℃で遠心する。

4) 懸濁液の上清を用いてウイルス分離およびRNA 抽出を行う。

RNA 抽出を行う前のDNase処理について

QIAamp Viral RNA Mini Kit を用いてRNA 抽出を行う際、喀痰成分はBuffer AVL を加える事で溶解する。しかし、Buffer AVL 溶解液中の喀痰由来のゲノム等の夾雑物により、RNA 抽出効率が著しく低下する事があるため、10%DTT in PBS 溶解液をRNA 抽出に供する場合は溶解液を事前にDNase 処理する必要がある。

DNase処理に必要な器具および試薬

マイクロピペット(10、200、1000μL)、滅菌微量遠心チューブ(1.5mL、2.0mL)、シリンジ、針、RNase-Free DNase Set(QIAGEN Cat#79254)

喀痰検体のDNase処理

1) RNase-Free DNase Set(QIAGEN Cat#79254)に添付のDNase I, RNase-Freeを添付のRNase-Free Water 550μL を用いて溶解する(溶解後のDNase 濃度は2.7 units/μLである)。溶解時にDNase(凍結乾燥品)の散逸を防ぐため、ゴム蓋は開けずに針付きのシリンジをゴム蓋に刺してバイアル内に直接RNase-Free Water 550μLを加え、転倒混和にてDNaseを溶解するとよい(ボルテックスは使用しない)。溶解したDNase I, RNase-Freeは凍結融解を避けるため小分けにして-20℃で保存する(9 ヶ月保存可能)。2-8℃で保存する場合は6週間以内に使い切る。

2) 10%DTT in PBS溶解液の一部に1/10量のBuffer RDD(RNase-Free DNase Set)と1/100 量のDNase I, RNase-Free(RNase-Free DNase Set)を加える。(例:445μLの溶解液に50μLのBuffer RDD および5μLのDNase I, RNase-Freeを加える。)

3) 室温で10 分間インキュベートした後、QIAamp Viral RNA Mini Kit 等を用いてRNA 抽出を行う。

* 本マニュアルではDNaseにRNase-Free DNase Set(QIAGEN Cat#79254)を用いた方法を例示したが、他社製品を使用してもよい。ただし、他社製品を使用する場合は室温反応で問題がないかどうか、また、RNA 抽出に影響を及ぼさないかどうかを事前に検討しておく必要がある。


本マニュアルは、インフルエンザウイルス遺伝子検査およびウイルス分離のための喀痰検体の前処理(第1版)国立感染症研究所インフルエンザ研究センター(平成25年10月)を参考に記載されています。

喀痰検体前処理フローチャート

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